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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1462号 判決

原告 居関稔

被告 東京国税局長

訴訟代理人 武藤英一 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十七年五月二十一日附で控訴人の昭和二十五年度分所得金額を金七十二万四千五百円とした審査決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人において神奈川税務署の昭和二十五年度の所得調査簿には訴外居関糸子の氏名を抹消して控訴人の氏名を記載してあると述べ、被控訴代理人において、控訴人の右主張事実は認めると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。〈立証 省略〉

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求を理由なしと認めるものであつて、その理由は左の事項を附加するほか、原判決がその理由中に説明するところと同一であるからこれを引用する。

当審証人平良保の証言によれば、所得税法の改正により昭和二十五年度分所得税の七月予定申告の総所得金額の見積額は、政府の承認を受けたもののほかは、前年度分の総所得金額を下ることができないとされ、納税義務者が政府の承認を受けないで前年度分の総所得金額に満たない額の昭和二十五年度分の総所得金額の見積額を基礎として予定申告をなし又は予定申告をしなかつたときは予定申告書提出期限に、前年度分の総所得金額に相当する額を昭和二十五年度分の所得金額の見積額とし、これを基礎として予定申告をなしたものとみなされることとなつたため、神奈川税務署長は前年度分所得税につき確定申告をすべき納税義務者全部に対し右の趣旨を徹底させるため「お知らせ」と題する甲第一号証と同趣旨の書面を発送したのであるが、訴外居関糸子(控訴人の妻)は昭和二十四年度分の営業所得の確定申告書を提出していた関係で、神奈川税務署長は同訴外人宛に甲第一号証の「お知らせ」と題する書面を配付したものであることを認めることができる。

また当審証人星山明の証言によると、菊名製パン所の昭和二十五年度営業所得については、当初前記居関糸子名義で予定申告が提出されたのであるが、同年七月末頃控訴人名義に訂正され予定申告書が提出されたので神奈川税務署徴収簿の担当記載係員は徴収簿の糸子の記載を控訴人名義に訂正しなかつたため、昭和二十六年四月十六日附を以て神奈川税務署長名で控訴人の妻糸子に宛て、昭和二十五年度の納税につき最後の催告なる書面(甲第十一号証)が配付されたもので、右は全く事務上の手違によるものであることを認めることができる。従つて甲第一号証並びに同第十一号証は、いずれも菊名製パン所の営業所得の帰属者が控訴人でなくその妻糸子なることの認定資料となすに足らない。

その他当審において新に提出、援用された各証拠は原判決の事実認定に影響するものではない。

しからば原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊藤顕信)

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